「見た目は、内面のいちばん外側」という言葉があります。外見には、ものごとの特徴や価値観が、自然と表れる。そんな意味合いです。

 22年9月、JBpressの広告チーム「JBpress Communication Design Studio」は、ウェブサイトをリニューアルしました。果たしてその新デザインには、どのような価値観や本質が表れているのか。

 そこで、アートディレクションを担当した早瀬真菜美さんに、デザインに込めた意図を聞きました。
 

アートディレクター/グラフィックデザイナー/イラストレーター 早瀬 真菜美氏
武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を卒業後、企画運営会社、デザイン制作会社を経てフリーに。ウェブデザイン、グラフィックデザイン、フォトディレクションにいたるまで、アートワークを手がける領域は多岐にわたる。またイラストレーターとしても活動。JBpressでは、企業プロモーション用特設サイトなどのアートディレクションを行う。

穏やかに見えても、根底には“振り切った何か”がある

──新サイトのデザインでなんといっても印象的なのが、大胆に配された青い樹と炎のイラストです。こちらはどのようにして生まれたのでしょうか。

 私のデザインプロセスでは、クライアントのお話を聞くなかで、クライアント自身もまだ気づいていないような思いや願望、本質的価値を言語化し、掘り下げることを大切にしながらご提案していきます。

 今回、JBpressからまずいただいたのが、「自分たちが企業のマーケティング施策のパートナーであることが顧客に伝わるようにしたい」というお話でした。それをベースにしつつ、他社との差別化ポイントを洗い出しながら、「知的さ」「堅実さ」「本質的」といった点をイメージワードとして掲げ、それを顧客に印象付けられるよう一緒に考えていきました。

──それを聞き、率直にどう感じましたか。

 私はこれまでもJBpressのお仕事に携わってきましたが、かねてよりJBpressの皆さまには、真面目で誠実にものごとを考えていらっしゃる印象を持っていました。今回「JBpress Communication Design Studio」のデザインのご要望をお聞きしたときも、JBpressがウェブサイトで表現されたいデザインのご要望と、私が皆さまに持っていた印象が一致していたため「自分の認識に相違はなかったな」と感じましたね。

 私はデザインに取り掛かる前に、クライアントのウェブページをはじめ案件に関わるいろいろな情報を仕入れて自分なりにかみ砕く作業をしますが、その作業を通してもやはり元々持っていた印象との齟齬は出てきませんでした。

──そこから青い樹と炎には、どうつながっていったのでしょうか。

 今回のJBpressの場合、いただいた要件や情報を噛み砕く中で、先ほど言った「知的さ」や「堅実さ」に加えて最終的には「静かな情熱」のようなものを強く感じました。熱さは確実にあるけれど、表面的に激しいわけではなく、一見すると静かなんだけど、内側に熱さや振り切った何かを秘めているような。

 この辺から急に占い師みたいになってくるのですが(笑)、言語化したそのイメージを視覚化する段階で、炎が頭に浮かんできました。炎といっても赤く燃え盛る炎ではなく、静かに、確かに燃える青い炎の方です。赤い炎の方が一見熱そうに見えますが、実際は青い炎の方が温度が高い。それが「静かな情熱」というワードと合致するなと感じたんです。そこから、先ほど言語化したイメージワードや、ヒヤリングで掘り下げたイメージと、視覚化した青い炎が合致しているかもう一度照らし合わせてみたところ、バッチリ当てはまっていると感じましたし、JBpressチームとも「これだ!」と盛り上がりました。そういう経緯で、この青い炎のブルーをキーカラーとすることになったんです。
 


──青い炎のイメージは、わりとパッと浮かんできましたか。

 そうですね。実は思想や「これがやりたい」といったものがはっきりしている対象ほど、視覚化するときもイメージがはっきり浮かびやすいんです。反対に思想がぼやけていたりブレていたりすると、イメージもぼんやりし、結果的にデザインもよくあるものになりやすい。その点、今回は青い炎のイメージがくっきり頭に浮かんできましたし、その色合いも「こういう青」というのが明確にありました。

 

“見たことがない”を実現するJBpressの土壌

── 一方で、サイトのトップの位置には、青い葉をつけた大木のイラストがあしらわれています。こちらには、どんな意味がありますか。

 樹をモチーフにすることに関しては、JBpressからご提案いただきました。確かにどっしりしていて堅実さ、誠実さをイメージさせ、ぴったりだと思いました。また樹には、クライアントと一緒にJBpressも育っていくとの意味も込められています。
 


──他には、どんな部分にこだわりましたか。

「知的さ」や「堅実さ」、そしてプロフェッショナル感を視覚的に印象付けるために、タイポグラフィやレイアウト、余白をかなり厳しく調整しています。

 写真を連続的に配置し、ある程度ゴチャっとさせた方がメディアサイトらしさが出るのかもしれませんが、今回は、より「知的さ」や「堅実さ」を視覚的に表現するためできるだけすっきりきれいに見せる方向に思い切って舵を切りました。

──結果的に、既存のメディアサイトとは一線を画す、静かな知性とインターナショナルな雰囲気を感じさせるデザインとなりました。ビジネスメディア関連のサイトでこうした雰囲気のデザインは、ちょっと見たことがありません。

 その“見たことがない”を実現できたところにも、JBpressらしさが表れているのかなと。というのも、クライアントによっては、ある程度のところまでデザインを一般化しないと受け入れていただけない場合があり、どこまで個性的なデザインを受け入れていただけるかは、クライアントの価値観や立ち位置にもよります。だからこそクライアントの求める塩梅に着地させるのも私たちの仕事ではあるのですが、正直、「このデザインでは他社とあまり差別化できなくなってしまうな」と感じるケースも少なくありません。

 しかし、JBpressの場合、「ちょっと個性的なデザインにしすぎたかも?」と思っていても受け入れてもらえることが多いです。やはりJBpressには、表面上は穏やかであっても、ベースには“攻めの姿勢”があるんでしょうね。その点、デザイナーとしてとしては一緒に仕事をしていて楽しいですし、やりがいを感じます。

 デザインというと「すべてデザイナーが作るもの」と思われがちですが、実際は世にあるデザインのほとんどは、デザイナー以外の役職の方も含んだチームで作られています。クライアントがいて、そこにさまざまな立場の人が関わる以上、デザイナーの一存ですべてを決めることはなかなかできません。だからご一緒するメンバーにより、アウトプットはどんどん変わってくる。それを踏まえると、今回こうして「見たことがない」と言っていただけるデザインが実現したのは、JBpressチームの攻めの姿勢や先進性があるからこそといえます。