(書き手: 日本ビジネスプレス 企画編集部長 瀬木 友和)

 JBpressではコロナ禍が発生した2020年の春以降、100回を超えるオンラインセミナー(ウェビナー、Webセミナー)を実施し、延べ50,000名を超えるビジネスパーソンの方々にご参加いただいてきました。JBpressのオンラインセミナー(以下、「セミナー」)の特徴は、そのほとんどが「DX」をテーマにしているという点です。また、小規模なセミナーでも300~500名、大規模なセミナーだと5,000名超を集客し、およそ半数が部長職以上の役職者という点も協賛社の皆さんからとても喜んでいただいているポイントです。一度JBpressのセミナーに協賛された協賛社が、再度協賛していただける確率(リピート率)が70%を超えているのは、私たちの誇りです。
 

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 そのほぼ全ての仕掛けに関わり、自称「日本で最も多くの“DX”がテーマのオンラインセミナーを仕掛けてきた男」が、2020年の春、突如として垂直に立ち上がったオンラインセミナー市場の2年半を振り返りつつ、JBpressのDXセミナーがなぜダントツの実績を上げ続けることができるのか、その理由をつづります。

 1回目となる今回はJBpressのオンラインセミナー誕生の背景をご紹介します。
 

JBpressのオンラインセミナーはいかにして生まれたのか

 ビジネス系のメディアの多くは、かねてから紙媒体(経済誌/ビジネス誌)を発行しており、創業から100年を超えるメディアも珍しくありません。一方、JBpressの立ち上げは2008年であり、主要なビジネスメディアの中では後発の部類です。JBpressが社会で存在感を発揮していくためには、当然のことながら既存メディアとの差別化が求められます。JBpressが立ち上げ当初から「The Financial Times(フィナンシャル・タイムズ)」や『The Economist(エコノミスト)』と提携し、他のメディアと比較して、グローバルな視点で捉えた政治や経済、ビジネスに関するコンテンツに傾注しているのはこのためです。結果、グローバルにビジネスを展開する大企業の方々、中でも既存メディアの情報だけでは飽き足らない、経営者や事業責任者といった責任ある立場の方々に篤い支持をいただけるようになりました。

 一定のポジションを確立したJBpressですが、さらなる成長のためにはより強力な差別化の要素が必要だと私たちは考えていました。そこで、立ち上げから10年という節目を迎えた2018年、JBpressの主たる読者層である大企業のリーダーの一部で話題に上ることが増えていた「DX」をテーマに、2つの新しい取り組みをはじめました。1つがDXをテーマした専門メディア「JDIR(JBpress Digital Innovation Review)」のローンチであり、もう1つが同じくテーマをDXにした特化したオフライン(リアル)のセミナー「JBpress Digital Innovation Forum」(現・DXフォーラム)シリーズの立ち上げです。当時のDXをめぐる状況は、一部の先進的な企業やリーダーの方々が成果を上げ、主にIT系の専門メディアで取り上げられはじめていた時期であり、日経新聞をはじめとした主要な経済メディアでは、まだあまり注目されていませんでした。イノベーター理論でいえば、イノベーター(革新者)からアーリーアダプター(初期採用者)の段階に市場が移ろうとする時期です。私の経験では、新しいキーワードがビジネスの世界に登場すると、アーリーアダプターからアーリーマジョリティー(前期追随者)の段階が、最もビジネスメディアで取り上げられます。多くのビジネスパーソンが情報を求め、メディアはそれに応える。コンテンツがよく読まれ、そのキーワードに関連した広告出稿やイベント協賛も増える、という好循環が出来上がるためです。その点で、2018年頃のDXは、まさにこれから黄金期を迎えるという時期でした。

 余談ですが、市場がアーリーマジョリティーからレイトマジョリティー(後期追随者)に移行し、社会に定着していくと、この好循環は終わります。当然、キーワードごとにサイクルの長短や上げ幅は異なりますし、キャズムを越えられず衰退するものも多数です。メディアをビジネスという視点で捉えると、そのキーワードが社会にどの程度のインパクトを与えるものなのか、一瞬の流行りものなのかを見極めることが肝要だと考えます。

 ここからは「JBpress Digital Innovation Forum」に絞って話を進めます。18年10月に開催した「第1回 Digital Innovation Forum」は初開催にも関わらず200名もの方々にご参加いただき、大きな手ごたえを感じることができました。その原動力となったのが、CDO(Chief Digital Officer/Chief Data Officer)の世界的なコミュニティーであるCDO Club Japanとのコラボレーションです。CDOという役職は今でこそ日本企業の間でも一般化しつつありますが、当時は米国から伝わってきたばかり。日本ではごく一部の企業が設置しているに過ぎませんでした。そこで、CDO Club Japan側はCDOという役職の必要性を大企業の経営層へ啓蒙するために、JBpress側はCDOが実践しているDXのケーススタディーを通じて、参加者の方々にDXを成功させるためのヒントを持ち帰っていただくために、「Digital Innovation Forum」の特別プログラムとして共同でパネルディスカッションを実施することにしたのです。

 第1回ではCDO Club Japanで代表理事を務める加茂純氏によるモデレーションの下、ブリヂストン執行役員CDOの三枝幸夫氏、日揮執行役員CDOの花田琢也氏、日本航空(JAL)執行役員イノベーション推進本部長の西畑智氏という3氏(所属企業、役職、管掌部門はいずれも当時のもの)をパネリストにお迎えし、DX成功の要ともいわれる「リーダーシップ」「組織文化」「人材」について激論を交わしていただきました。このパネルディスカッションは参加者アンケートで驚異的な満足度を獲得し、以後、「Digital Innovation Forum」の定番企画として人気を博すこととなりました。

CDO Club Japanとのコラボで実施するパネルディスカッションはDigital Innovation Forumの人気定番企画に

 2回、3回、4回と回を重ねるたびに規模を拡大させ、300~400名もの方々にご参加いただけるまでに成長した「Digital Innovation Forum」をコロナ禍が襲ったのは5回目の開催を目前に控えた20年2月でした。前年から仕込んでいたプログラムは全て固まり、400名収容できる大規模な会場を確保。3月4日の本番に向けて準備万端で集客に精を出している時期でした。新型コロナウイルス感染症が日本でも徐々に拡大し、イベントの開催を断念する主催者が増えていきました。当時の記録を見返すと、本番の2週間前の時点で事前の参加登録者数は400名を超えていました。参加登録者の皆さんの期待や協賛社の皆さんの意気込みなどを考えると、安易な決断はできません。ぎりぎりまで開催するか否かを慎重に検討していました。事務局に最終的な決断を促す決定的な要因となったのが、2月26日に政府から出されたイベント開催の自粛要請でした。20年はうるう年。3月4日に予定されていた本番の5営業日前のことでした。

 そこからは怒涛の5日間でした。当時の日本において、オンラインセミナーは今のように一般的なものではありませんでした。一部のIT系のメディアや外資系IT企業が実施している程度だったように思います。私たち事務局のメンバーは、主催者としてはもとより、参加者としてもオンラインセミナーというものを体験したことがありませんでした。弊社では2月から全面的に在宅勤務となっていたため、事務局のメンバーは慣れない非対面の状況下で、どのようにしたら3月4日のセミナーをオンラインに切り替えて実施できるかを議論し、突貫工事でスキームを詰めていきました。結果、確保していた400名が入る会場をライブ配信場所として、無観客で実施することとなりました。

 700名を超える事前登録者を集めて迎えた本番当日。13時の開幕に向けて設定したログイン可能時刻は12時30分でした。事務局のメンバー全員が固唾を飲んでモニターに表示される視聴者数を見守ります。12時30分をまわり、視聴者が徐々に増えていきます。開演が近づくにつれて増加のペースは上がり、13時の開幕時点では300名に到達しました。

無観客の会場で堂々と講演する講師

 一部のゲスト講師は所属企業の方針によりセミナー会場に移動すること自体がNGとなり、急きょ別のプログラムに差し替えるなどの混乱もありました。しかし、大半のゲスト講師と協賛社の皆さんは無事に会場までお越しいただき、400名が入る会場でごく少数の関係者だけが見守る中、見事なプレゼンテーションを行っていただくことができました。その日、最終的には350名を超える方にご視聴いただき、歩留まりは約50%。1人あたりの平均視聴時間は2時間30分。JBpressのはじめてのオンラインセミナーはこうして無事に終わりました。

 次回は、延べ50,000名もの参加実績を持ち、そのおよそ半数が部長職以上の高役職者を集める圧倒的な集客力の秘訣をご紹介します。