新規サービスを広める上でマーケティング施策は重要ですが、得てしてこれらは担当者の属人的な能力に左右されがちです。特にBtoBマーケティングは顕著かもしれません。 そんな中、1つ1つのサービスのマーケティング施策の効果を分析し、自社内の他の新規サービスにも展開可能な形にすることで、早期収益化を実現しようと取り組む企業があります。ソニーネットワークコミュニケーションズです。

 同社が行うのは「自社内でのBtoBマーケティングのメソッド化」。2020年の組織化からマーケティング結果を蓄積しはじめ、その成果を体系的にすることで再現できるよう、2022年にメソッド化の取り組みをスタートしました。 本記事では、ソニーネットワークコミュニケーションズ 法人サービス事業部 マーケティング課の小林佳生氏に取材。DOOH(デジタル屋外広告)などの動画マーケティングを行うコネクテッドメディア代表取締役の二口晃氏が聞き手となり、メソッド化の詳細を聞いていきます。

BtoBサービスの認知施策は「事後評価がしにくい」

二口:ソニーネットワークコミュニケーションズでは、1つ1つのマーケティングを効果測定し、その分析をもとに自社内のBtoBマーケティング施策をメソッド化する取り組みを始めていると伺いました。その中でもDOOH施策の最初となったのが、2022年3月に行われた「NURO AI」のプロモーション施策です。 まずはこの施策について、どんな考えで行ったのか教えてください。

小林:NURO AIとは、弊社の企業向けAI活用サービス群のブランドで、専門的な知識がなくても、AI技術を業務に生かせるようになることを目指して生まれました。NUROはもともと「NURO 光」などの光回線ブランドでしたが、2021年9月にリブランディングを実施。NUROをさまざまなネットワークサービスのブランドの総称とし、そのNUROに紐づくサブブランドとして「NURO Mobile」や企業向けとなる「NURO SmartLife」「NURO Biz」などのサブブランドを位置付けました。NURO AIもそのひとつです。
 

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 法人サービス事業部 事業推進部 マーケティング課 課長 小林佳生氏

 3月に行ったNURO AIのプロモーションでは、3つのポイントを意識しました。1つ目は、NUROブランド全体の方向性である「先進性」と「親しみやすさ」を大切にしたコミュニケーションにすること。2つ目は、その上でNURO AI独自の価値や個性を打ち出すこと。そして3つ目が、取り組みの実施効果を検証・評価し、次の施策、他サービスに活かせる形にすることです。これが「メソッド化」につながります。

 今回のプロモーション施策の1つに、DOOHを初めて採用しましたが、BtoBサービスの認知施策はどうしても事後評価しにくい、されにくいことと、取り組みで得た経験がサービス担当が違うことなどにより生かせないという課題感があり、この考えが生まれました。 

二口:「事後評価しにくい・されにくい」というのは、お金をかけたことに対しての評価なのか、それとも社内的な評価、マーケティングチームとしての評価でしょうか。

小林:両方です。特に前者に対しては、BtoBサービスは成約に対する意識が強いので、そこに直接つながる活動は評価されるでしょう。しかし、サービスの“認知”を取る施策は評価の仕組みが十分でないと言えます。理由のひとつとして、BtoBサービスは認知から成約までのリードタイムが長いことが多く、施策直後に評価できないことも挙げられます。

 そのため、サービスの認知施策が商談、提案、成約にどうつながったかトレースし、検証・評価、経験値を他に活用できるかたちにする、アップデートする仕組みを十分に構築している 会社はまだ少ないと思います。結果、認知部分の施策評価が難しくなります。そこでまず、トレースや検証・評価の仕組みを作り、経験を他に活用できるかたちにできるようメソッド化しようと考えました。

二口: おっしゃる通り、BtoBは成約への意識が強く、直接成約につながる数字だけ見ているケースがあります。結果、認知と成約が分断されてしまう。ただ、当然ですが認知がなければ成約にはつながりません。そのつながりをきちんと数字でトレースしようとしたわけですね。

コネクテッドメディア株式会社 代表取締役 二口 晃氏

小林:はい。また、私たちの事業部で持つサービスは現在10ほどになりますが、各マーケティング活動の経験値が事業部内で活用できるかたちにしきれていませんでした。結果、どうしても施策が担当の経験、スキルに左右されてしまいます。特に、新規サービスの場合、早く収益化させられるどうかは、その担当のスキルや経験値に強く依存してしまうと感じています。 

 その中で、各施策で得られた結果を分析、体系化できれば、別のサービスにも適切な手順、アプローチで展開でき、比較的短期間でスキルの影響を受けにくいかたちで効率の良いマーケティング活動を実現できるのではと考えました。これがメソッド化であり、私たちがチャレンジしていることです。

認知から深掘りまで、メディアを使い分けたNURO AI施策

二口:NURO AIでは、どんなマーケティング施策を行ったのでしょうか。

小林:今回の施策では、段階的に内容を深掘りして発信するように企画しました。はじめはNURO AIの名称とコンセプトを伝え、その後はNURO AIに紐づくサービス群と、発信内容を深堀りしていきました。また、その後も継続的に接点を作っていくストーリーを構築し、NURO AIブランドとサービスの認知、理解が深まることを目指しました。

二口:実際の施策では、ビジネスメディアでの特集や雑誌展開、DOOHなどの動画活用まで幅広く展開されましたよね。中でも動画についてはどのような活用を考えたのか教えてください。

小林:NURO AIの名称とコンセプトを伝える部分に動画を活用しました。利用できる素材や時間的な制約がある中で、目的達成ができそうな構成と配信手段を検討し、DOOHとYouTubeを軸に実施することにしました。

二口:DOOHについては、需要は高まっているものの、どう活用して良いかわからず悩んでいる方も少なくありません。活用の決め手はどんなところにあったのですか。

小林:DOOHは私たちにとって初めてのチャレンジでしたが、インプレッションの高さと、デジタルに触れていない層への認知手段の可能性の検証として選択しました。

 注意したポイントは2つあり、1つはDOOH単独では効果が見えにくいため、オンラインとの連携で相乗効果を出しつつ、連携によってその効果を可視化できるようにしたこと。そして2つ目は、次につながる気づきが得られるようにすることです。先ほどご説明したメソッド化につなげるためです。

 

 

どのように効果を分析し、メソッド化を行っているのか

二口:具体的には、どのようなことをしてメソッド化につなげたのでしょうか。

小林:動画施策の後にイメージ調査を実施し、より興味を持っていただくためにはどうしたら良いか、示唆が得られるように検証内容を設定しました。たとえばDOOHなら、配信期間中、そのエリアに滞在した人にアンケートを実施。動画から受けた印象を、たとえば動画自体に受けた印象、興味を持ったか、購入検討したいかなどを確認し、分析しました。

 また、そこからブランドサイトやサービスサイトへの誘導・送客が行われているかも分析・評価できるようにしました。

二口:こういった分析は手間がかかりますし、そもそも社内で回すノウハウを持っている企業は少ないですよね。多くは外部に委託するケースも多いと思います。

小林:その点では、手前味噌ですがNURO AI のAI予測分析ツール「Prediction One」 を使って分析しました。Prediction Oneは予測だけでなく、寄与分析も可能で、「興味関心、購入意向が高い来訪者はどんな印象傾向があるのか」を導くために、興味関心、購入意向に寄与すると思われる要素を事前に仮設設定し、アンケート項目に盛り込むことで、専門の知識を必要とせず簡単に分析することが可能になります。実際に分析してみて、次回につながる改善点とシミュレーション精度をあげる示唆を得ることができ、オンラインメディアとDOOHの組み合わせに合ったクリエイティブ企画をすることでターゲットへの接触は増えることが認識できました。

二口:ちなみに、マーケティング施策のデータを蓄積してメソッド化する上でのポイントはどこにあると思いますか。

小林:取り組む際に仮説を設定しておくことと、はじめからメソッド化しようとしないことです。目標に紐づいてその施策を企画されると思うのですが、その施策を選択した目論見があると思います。その目論見に対する評価が自社のノウハウの素になっていきます。ただ、そこで得たノウハウをシステマチックにいきなりすることは、考えるほうもやるほうも負担となり継続しません。

 まずは個人のトライ&エラーで得た知見を発表する場を用意し、他のメンバーに伝える機会を用意します。その際、伝えるために資料を用意することになりますが、自身の経験のアウトプットをしつつ、他のメンバーにわかりやすく情報をまとめる必要がでてきます。それを繰り返していくと個人の知識がチームの知識になり、体系化されメンバー間の共通認識も高まっていきます。このように部分的、暫定的に運用しながらアップデートしていく形にすることがポイントだと思います。

二口:今後、メソッド化についてはどんな展望を描いているのでしょうか。

小林:組織として効率的、効果的にマーケティング活動を行うために今、検討しているメソッドのかたちは、フロー、ワークシート、シミュレーションの3つを考えています。フローは手順通りに行う、ワークシートは設問に答えていく、シミュレーションは目標を入力する、いずれもガイドに沿って行くことで、今現在、自社でベストなオペレーション、クリエイティブ制作、プランニングができるようにするためのツールです。

二口:そして、そういったメソッドを全社でシェアしていくということですね。

小林:はい。いずれはB2Bビジネスを行っているどの部署でも自由に使えるようなものにしたいと思います。現在は個別に相談を受けたり、社内セミナーという形で他のチームに事例を共有しています。正直なところ、認知から成約までをトレース、評価し経験を体系化する仕組みを作るのは大変ですが、それができれば人の経験値に依存したチャレンジが減り、再現性が高くなることで活動品質の底上げがされ弊社の強味にもなると思っています。