2020.7.6

ユーザーエンゲージメントと収益の両方を向上させる Media Weaver Driveの目指す世界

ブレインパッド上川氏インタビュー

聞き手:鵜山 雄介(日本ビジネスプレス)

メディア CMS マーケティング 技術
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 2020年6月4日、日本ビジネスプレスはブレインパッドと共同で、WEBメディア向け統合ソリューション「Media Weaver Drive(メディアウィーバードライブ)」を発表しました。
 このMedia Weaver Driveとは、どのようなソリューションで、どのようにして生まれたのでしょうか。そしてメディア業界に何をもたらすのでしょうか。
 今回、共同で開発に取り組んだブレインパッド プロダクトビジネス本部プロダクト開発部長を務める上川晃二朗氏に、メディア企業の抱える課題や、今回のソリューションを実現した技術的な背景などを聞きました。

ブレインパッド プロダクトビジネス本部プロダクト開発部長 上川晃二朗(かみかわ・こうじろう)氏 2013年にRtoasterの導入コンサルとしてブレインパッドに入社。カスタマーサクセス部門の部長やRtoasterのプロダクトマネジャー、本部のマーケティング部門長などを経て現職。好きなものはキングダムとラーメンとネコ。
【プレスリリース】日本ビジネスプレス × ブレインパッド、WEBメディア向け統合ソリューション『Media Weaver Drive』を共同開発
【プレスリリース】「JBpress」に『Media Weaver Drive』を導入し、レコメンドのCTRを145%と大きく改善

 

メディアのビジネスに寄り添ったソリューションの開発

――ブレインパッドは普段どのような事業に取り組まれているのでしょうか。

上川晃二朗氏(以下敬称略) ブレインパッドは、「Analytics Innovation Company」をビジョンに掲げています。ビジネスと顧客体験、それに紐付くようなオペレーションの中で、先進的かつ実践的なデータ分析・データ活用のサービスをお客様に提供し続けるリーディングカンパニーを標榜しています。
 事業として大きく3つのセグメントがあります。1つめは高度なデータ分析に取り組むアナリティクス事業。2つめは、企業に散らばるデータを統合して活用できるようにするためのインテグレーションを行うソリューション事業。3つめはプロダクトビジネスを行うマーケティングプラットフォーム事業。自社のプロダクトの開発はもちろん、海外の製品を目利きして、日本に持ってきて販売するということもやっています。
 製品としては、今回Media Weaver Driveに採用いただいているレコメンドエンジン搭載プライベートDMP「Rtoaster(アールトースター)」や、グループ会社のMyndが提供している自然言語処理エンジン「Mynd plus(マインドプラス)」などがあります。

――今回の開発にあたっては、弊社のWEBメディア向けサイト構築・運用支援システム「Media Weaver(メディアウィーバー)」に、RtoasterとMynd plusの技術を組み合わせさせて頂きました。両製品の特長について簡単に紹介をお願いします。

上川 Rtoasterはオンラインからオフラインまで多様なデータの蓄積・管理から、顧客ひとり一人にパーソナライズされたアクションまで実行できるレコメンドエンジン搭載型のプライベートDMPとなります。
 Mynd plusは、自然言語処理のモジュール群です。最近はオープンソースも含め、自然言語処理が増えてきていますが、Mynd plusは古くから日本語の言語処理に取り組んできました。人工知能や機械学習などの技術を駆使してテキストデータを解析、マーケティング領域をはじめ様々なビジネスシーンでデータを活用しやすくしてくれます。

――今回、共同開発するに至った背景を教えてください。

上川 以前からメディアでRtoasterをご利用いただくというケースはありました。ただデータをどう活用して収益に繋げていくのかということに課題感を持っているメディアが多くいらっしゃるように感じています。
 また最近はサブスクリプションモデルに代表されるように、ユーザーとのエンゲージメントを、いかに向上させるかという視点にも注目が集まっているかと思います。ユーザーが記事を閲読し、最適な記事をレコメンドしてファン化させ、結果としてページビューの向上ならびに有料会員化させるフローは非常に重要なポイントと言えます。
 そこで、自社でJBpressというメディアを運営しながら他のメディアの収益やユーザーエンゲージメントもサポートしている日本ビジネスプレスと組むことで、メディアのビジネスをより理解した形で、僕らのサービスをしっかりとメディア向けにフィットさせることが出来るのではと考えたからです。

――MediaWeaverとRtoasterの連携には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

上川 記事のデータやサイトのレイアウトを管理する機能を持つMediaWeaverと連携することで、投稿・更新した記事を自動でRtoaster側に取り込むことが出来たり、煩雑になりがちなメンテナンス業務などが軽減されたりなど、大きなメリットがあると思っています。

 

優れた技術が可能にするユーザー体験と収益の向上

――Media Weaver Driveは、搭載する4つの機能(コンテンツ解析機能、DMP機能、レコメンド機能、リアルタイム関連記事機能)によって、WEBメディア運営における内部回遊率、広告収益、有料会員数などの多様なKPIをトータルで支援するものです。まずはコンテンツ解析の部分について、記事のデータをどのようにして「使えるデータ」にしていくか教えてください。

上川 Mynd plusの機能を用いて投稿された記事の全文を解析、記事の特徴を抽出しています。単純に多く頻出する単語などではなく人工知能により文脈を判断したり、H1、H2といったHTMLの構造まで見たり、どんなキーワードがこの記事を表現するのに適切なのかまで、スコアを付けて解析しています。
 そのうえで似通ったものを表現している記事や、関係性の深いワードを互いに持ち合う記事などで類似性を判断していくのが特徴です。

――人工知能で文脈判断ができ、自動的に分類されるのは非常に便利ですね。
一方で、それでも編集者による経験と感覚で、関連する記事をレコメンド選定したいという要望はどのメディアでもあると思います。そのような人工知能×編集者知見を表現する方法はあるのでしょうか?

上川 その辺りはある意味こだわりとして追加開発させていただいた点で、記者が選ぶレコメンドと共存できるように、記者のレコメンドを優先しつつ重複を排除できるようなロジックを開発しています。記者が「これはこの記事とあわせて読んで欲しい」と思うのは大事ですし、それは機械では選べないものだと思います。
 どういうオピニオンを伝えたいのか、どういうストーリーがこの記事の裏にあるのか、しっかりとメディア自体が伝えていくのが重要ですので、共存できるために提供しています。
 

高度にパーソナライズされた記事と広告の出し分け

 

 
――今回、Media Weaver Driveの実証実験をJBpressで行っています。ユーザーの来訪頻度に合わせて、記事だけでなく広告の出し方まで変えることで、レコメンドのCTRを145%と大きく改善できました。それを簡単にできているのはRtoasterの機能が優れているからだと思いますが、その辺りのスコアリングやセグメント化について教えてください。

上川 スコアリングやセグメント化では、その人がどういう興味があるのか、どういう記事を出すのがよいのかは機械に任せることができます。一方で、その人が非会員か有料会員か、来訪頻度が多いのか少ないのかなどのステータスの違いによるセグメントも可能です。
 各メディアが独自性を持って、ユーザーの行動をスコアリングして分類していくことができるというのも、大きな特徴です。

――2つの機能を整理すると、1つは自然言語処理をして記事をセグメント、もう1つは行動や状態に応じてユーザーをセグメントできる。ここでセグメントが2つ作れるわけですが、大事なのは作ったセグメントに応じて配信するレコメンド機能です。レコメンドする機能をどのように実現しているのでしょうか。

上川 自動化されたレコメンドの生成に基づいて、表示まで持って行く機能になっています。単純にユーザーごとにAというレコメンドウィジェットを出すかBを出すかではなく、MediaWeaver Driveではウィジェットのなかで記事と広告の表示本数までユーザーごとに出し分けるなど、回遊性と収益性の両方をコントロールしていけるという点が非常にユニークであると考えています。

――そうですね。さらに広告という観点で言えば、純広告と運用型広告の本数の出し分けはもちろん、ユーザーや行動別にどの運用型広告を出すかなどもコントロールできるのは収益面で大きいと考えています。回遊性が高まることも収益に直結するわけですがRtoasterでは配信ロジックについて、機械学習とルールベースをハイブリッドで出せるということで、その点についても教えてください。

上川 本来、機械学習では、ユーザー一人ひとりに最適な配信が自動化できます。また、ルールベースでは、行動や状態に応じて戦略的に配信が可能です。
 内部回遊率と広告収益化というメディアの目標を同時に実現するには、2つの配信ロジックのハイブリッドが必要と考え、Media Weaver Drive向けに新たに実装いたしました。

――メディアがこうしたソリューションを利用するうえで、ひとつの壁となっているのがリアルタイム性かと思います。メディアにとっては今日出した記事は一番読まれやすかったりするので、リアルタイムにどれだけ対応できるかというのは非常に重要なポイントであると考えていますが、いかがでしょうか。

上川 仰る通り通常のレコメンドでは閲覧履歴や購買履歴に基づいて計算をしていきますが、それでは新着記事でレコメントが出せない「コールドスタート問題」が発生し、機会損失につながります。Rtoasterではユーザーの履歴だけに頼らず、記事間の類似度合いやユーザーの興味傾向を紐付けてレコメンドできるので、新着記事でも対応が可能です。
 あと重要と考えているのは、レスポンスのリアルタイム性です。よくあるレコメンドエンジンもそうですし、出し分けツールだと表示の遅延が発生したりします。遅延やちらつきが発生したり、空白になった後で遅れて表示が出たりすると、事業者側の機会損失につながります。スクロールしきってから表示されても絶対に目に触れないので、ビューアビリティの観点でもロスになってしまいます。
 一方、消費者サイドからしても、遅延が生じると体験を損ねてしまい、かなりストレスフルだと思います。そのリアルタイム性にもこだわりを持ちつつ、他社と比較してもかなり優位性を持った性能を提供できています。

 

聞き手の日本ビジネスプレス鵜山(左)と上川氏。

 

メディアと共創していく取り組みを目指して

――今回のプレスリリースを出して、反響はいかがでしたか。

上川 フェイスブックで、メディアをやっている会社の社長さんから「すごく面白いね」とお声をいただいたりとか、取材させて欲しいという話もいただいたりしています。メディアの方々に興味を持ってもらっています。

――最後に、Media Weaver Driveに対する、上川さんの期待など教えてください。

上川 現状では、RtoasterはプライベートDMPを標榜しており、お客様のデータビジネスを支える存在と位置づけています。その中で、今回のようにメディアビジネスを支えていくことでは、単なるツールの提供で終わるのではなく、メディアの中におけるこだわりなどに、しっかりと応えていけるというのも理想的だと思います。
 あとは、回遊率を上げてPVを向上させて広告媒体としての価値が上がるという課題解決だけでなく、メディアの中に存在する課題を日本ビジネスプレスとタッグを組んで解決していけると思っています。まだスタートラインに立ったところかもしれませんが、使ってもらったり提案したりしていく中で、メディアからのフィードバックに基づいて、いわゆる共創していくような取り組みになればと、個人的にわくわくしています。

 * * *

メディアにとってデータ活用は重要な課題ですが、人員やコストといったリソースをどのように確保するかなど障害も少なくありません。今回のMediaWeaverDriveは、メディアの保有するデータを誰もが手軽に扱え、ユーザー体験と収益の両方にとってベネフィットが得られようにと考え開発したソリューションです。
ユーザーとのエンゲージメントを高めページビューを増やし、広告の最適な運用を行うことで収益も向上させる。MediaWeaverDriveが皆様のメディアビジネスを加速させる一助になればと考えております。

 

 

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