私たちは生活の中でさまざまなメディアや広告に触れていますが、その中には街で見かける屋外広告があります。そしてその屋外広告もデジタル化やネットワーク化が進んできています。これからの屋外広告はどうなっていくのでしょうか。デジタル屋外広告ネットワーク(DOOHN:Digital Out Of Home media Network)に取り組む、コネクテッドメディア代表取締役CEOの二口晃氏に聞きました。(聞き手:日本ビジネスプレス 長島章夫)
■少しずつ進む屋外広告のデジタル化
――そもそも屋外広告には、どのような種類があるのでしょうか。
屋外看板・屋外ビジョン(大型ビジョン・屋外サイネージ)、商店街などで見られるフラッグ、店内のモニターに流れる動画、古くは野立て看板、アドバルーンなど多岐にわたる媒体が含まれます。
――日本の屋外広告市場について、現状を教えてください。
電通が発表している広告統計では、屋外広告の売上は2022年が2800億円でした。コロナ前には3200億円を超えていたものが下がって、ようやく少し戻ってきたところです。
ただ、あるデータによれば、東名阪に存在する大型ビジョンすべてに広告が出続けるとすると、1年間の売上は600億円を超えるという計算になります。コロナ後の消費者マインドの変化や、媒体の設置、映像出力機器が安価になっていることなどをかんがみれば、非常に伸びしろのある分野といえると思います。
――昨今のDOOHはどういう位置づけなのでしょうか。
海外ではインターネット広告の市場が日本より大きく、ターゲティングの細分化が進んでいますが、その一方でターゲットから外れた人へのリーチが困難になっています。その中で急浮上してきたのがDOOHです。セレンディピティといいますか、たまたま通りかかった広告を目にするという「接触」の価値が見直されてきました。
日本でもターゲットの細分化は海外ほど極端ではないものの、グローバルの流れを受けてDOOH業界のプレイヤーが増えてきました。またコロナ禍という経験を経て、この機にDOOHの存在や市場を見直そうという機運が高まっていると感じます。
■データで可視化される屋外広告の効果
――屋外広告のデジタル化とは何をするのでしょうか。
まず配信のネットワーク化があります。これまでは個々のビジョンごとに入稿や配信管理をしていたわけですが、規格を統一して、複数のビジョンを一元的に管理しコントロールできるようになります。
効果測定の方法も変わっていきます。これまでは表示回数だけで評価をしていましたが、デジタル化によって様々なデータの取得ができるようになり、位置情報、エリアの統計値など外部のデータと掛け合わせた分析も可能になります。
この、配信と効果測定がデジタル化の大きな要素といえるでしょう。
――デジタル化が進むと、インターネット広告と同様にプログラマティックな取引が増えていくのでしょうか。
はい。海外では実績も増えていて、日本でもサービスを開始している会社もあります。ですがまだインターネット広告のように思いのままに出し分けるというところまでには至っていません。どちらかというとPMPの枠組みに近く、オーダーメイドなプランを実施しているというのが日本のプログラマティックの現状かと思います。
――大型ビジョンは1対1から遠いところにある媒体です。デジタル広告の強みであるターゲティングについてはどう考えたらいいでしょうか。
1to1と同じ効果を目指すという考え方もありますが、今はそこに労力をかけるより、1toNであることを活かしたプランニングに磨きをかけることが大切ではないかと考えています。
たとえばエリアはもちろん、天気や時間帯、施設の役割など、様々な要素を掛け合わせたターゲティングです。それに加えてコンテキスト。たとえば、夜の六本木と昼の渋谷ではターゲット層が違います。また人々がどういうマインドで動いているかは、広告接触に対して影響があると思います。給料日にうきうき気分で街に出て接触する広告と、コロナ下で鬱々として接触する広告とでは、同じ人にとっても違う受け取り方をするでしょう。同様に、イベント中に大勢で見る広告と、1人で見るパーソナルな広告とでは、価値も変わってくると思います
そういった「感覚」にさまざまなデータを交えながら、よりよいプランニングをすることが求められていくでしょう。
■臨機応変に、一緒に考える
――コネクテッドメディア社の事例を教えてください。
ロケーションの工夫をした例として、ケンタッキーフライドチキン社様の事例があります。このときは店舗と400m以内のエリアの媒体を使い、ランチ時の需要でリーセンシー効果を最大化したいという要望にお応えいたしました。
スポーツカンパニー様の事例では、東京マラソンのタイミングで、ランナーが走るエリアのランナーから見える媒体に出稿した例や、東京オリンピックの試合スケジュールに合わせてクリエイティブを変えていったケースがあります。
バドワイザー様は、ワールドカップで日本が勝ち進むタイミングを見計らいながら出稿を調整し、SNSでも活用していただきました。
エリアやマーケットの状況をにらんで、臨機応変に対応できるのが弊社の強みです。単純にパッケージを売るというよりは、広告主や代理店と一緒に考えながら、最適なエリアと最適なクリエイティブをミックスして面白い提案ができると考えています。
――いち押しの商品はありますか。
渋谷の交差点から見えるビジョン、最大13面をジャックする「シンクロ」という商品があります。媒体が連動して広告放映されることで、非常に大きなインパクトがありますし、SNS映えもします。あるクライアントはわざわざ見に来てくださって、オフィスに写真を飾ったりしてくれているんですよ。
NYのタイムズスクエアでも『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』、『BTS』などをジャックしていた光景を報道でご覧になった方も多いのではないでしょうか。屋外広告の価値やマインドを高めるという点で、業界全体にとってもよい試みとなっているのではないかと思います。
■すべての人に喜んでもらえるようなサービスを
――コネクテッドメディアの設立の経緯を教えてください。
屋外ビジョン(大型ビジョン)を創成期から家業としている友人がいて、彼と意見交換しながらビジネスプランを書き始めたのが発端です。
DOOHは前述のとおり長らく手つかずの分野でしたから、当初は自らが起業するとは考えていませんでした。しかし、前職グラムメディアでアドネットワークを構築したその屋外版と考えればできないことではありません。
コロナで業界全体が停滞しているような事態に、何か新しくてチャレンジングなことをしてみたいと思いましたし、30年近く関わってきた広告業界への恩返しにもなればという思いも重なり、ちょうど海外のプレイヤーが増えて日本にも影響がではじめたタイミングで、設立に至りました。
――こだわっている点があれば教えてください。
まず、広告主や代理店にとってはブランドセーフティが非常に大事です。いくらインプレッションがあっても、質の悪い媒体では価値が下がります。そのため、弊社は独自の基準を設けて一定のクオリティを担保できる媒体のネットワーク化を検討しています。
一方で、ふさわしいロケーションは無尽蔵にあるわけではないので、媒体オーナーをサポートしていくのもミッションとして考えています。きちんとメンテナンスして視認性を高め、デジタルに対応できる媒体になれば、良い広告主とつながります。こういったアピールをきちんとすることで、業界全体にいい影響を与えていきたいです。
また、効果測定にあたっては、インターネットやテレビの視聴率と同様に「インプレッション」を出すことで、どれだけゴールに寄与したかを測定できます。分析には大手キャリアやモバイルアプリのデータなどいくつかの統計を組み合わせています。特定の統計に限らず、その都度、最も精度の高いデータを利用できるところが私たちの強みです。
――最後にメッセージをお願いします。
「三方よし」とは、売り手よし、買い手よし、世間よしといいますが、屋外大型広告では「世間」が大きい。
メディアは見たい人が見ればいいとも言えますが、屋外ビジョンはそうではありません。ですから交通のじゃまになるような広告を出さない、災害時には情報を地域に伝えるなど、社会=世間に貢献するという意識を大切にしていきたいです。広告が売れればいいというだけではなく、全ての人が喜ぶサービスを実現していきたいと考えています。
(内容はすべて執筆時の情報です)