2018.6.27

読売広告社木村朋子氏に聞く(前編)
「リードと認知の健全なバランスを目指して」

【BtoBマーケティングの現場インタビュー】

加藤 真由(日本ビジネスプレス)

マーケティング 分析 メディア
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BtoB企業でMA(マーケティングオートメーション)ツールの導入が進み、デジタルマーケティングの推進がますます重要になっています。デジタル活用時代に広告会社ができることは何か。そして、メディアの役割とは?
弊社 企画開発部部長の鵜山が、読売広告社 営業戦略推進局 デジタル戦略推進部の木村朋子氏に聞きました。

 

読売広告社 営業戦略推進局 デジタル戦略推進部 木村朋子氏

 
 数年前まではBtoC案件を担当していました。しかしデジタルの領域が広がってきたときから、BtoB案件のお声がけをいただくことが増えてきました。先進的な取り組みを行っている企業もあり、読広社内でのBtoBマーケティングのウェイトも上がってきています。

 以前は化粧品のクレンジングを売るとしたら、「20代女性、スキンケアに興味あり」という人に広告を打っていました。クレンジングを買うのは2~3ヵ月に1回とすると、今回は購入に至らなくても、次回は少し訴求やメニューを変えたりして小まめにPDCAを回していこうで良かった。しかし、BtoBでは導入されたら数年ひっくり返らない。ここは頭を切り替えています。数年単位のスパンでタイミングを計るのが難しいですね。例えば1年後に何かのきっかけで、話を聞きたいとなることがあります。この1年後の「何か」をつかむためのウォッチングがBtoBマーケティングです。たくさんデータが取れる時代なので、それを逃さず競合に渡すことなくキャッチする、そして声をかけてもらう土壌をつくっておくことが大事です。

―――MAツールを活用しているお客様が多いのでしょうか?

 お客様の多くは、導入したばかりで運用はこれからという企業です。数年前、BtoBマーケティングにMAを導入した方がいいという大きな波があった後、去年頃から本格的にきちんと運用しないといけないという動きが活発になり、広告会社にもお声がけをいただくようになりました。シナリオ作りを手伝ってほしいとか、どういうリードを獲得して購買につなげたらいいのかとか、相談内容は様々です。

 全社的にフル活用できているというお客様は少ないです。事業部署によってシナリオが違っていることもあり、弊社としてもお客様と試行錯誤しながらやっている状況です。

広告会社もデジタルに関する知見を増やす努力をしている

 私が所属しているのは、もともとダイレクトマーケティングをやっていたデジタル戦略推進の部署です。3人がデジタル戦略の立案、他の10人はデジタルメディアのプランニングをやっています。社内でデジタルに関するデータ分析から戦略・戦術までを結び付けている部署はここだけです。会社からやれと言われたのではなく、お客様からの需要があって必然的にそういうチームができて、やらざるを得ないという状況になりました(笑)。

 

 データ分析した結果を翻訳し、お客様にわかるようにするのが、私たちの部署です。データをどう解釈してお客様に伝えるか、解釈の仕方はいろいろありますね。お客様によっては、データを見る体制を持っているところもあれば、全ておまかせされるところもあるので、その場合はミスリードしないようにと気を付けています。

 これまで広告会社の多くは、新聞やCMやイベントなど、いわゆるオールドメディアがビジネスの中心でした。オールドメディアの扱い歴が長い方ほど「リスティング」などの話には拒否反応もあります。手間ばかりかかるし、若い人たちにやってもらいたいなって。実際、どこの広告会社もウェブ担当は若い人が多いですね。しかし、部長・ディレクタークラスの人もデジタルを理解していないとお客様との会話が成立しなくなってきました。ここ数年で、誰もがやらないとまずいという状況になっています。もはや逃げられないんだなって。

 そういう状況を打破すべく、社内で定期的にデジタルに関する勉強会をやっています。私たちのデジタル戦略推進部は年2回「デジタル1.5」というイベントをやっていて、3~4日間かけて60分×2コマでデジタル業界のトピックスなどを共有しています。会社としてもデジタルに関する知識をアップデートしないといけないという後押しもあり、全社員に受検義務があるウェブテストが半期に1回行われています。問題は、直近の業界の大きなトピックスとか、最近のメディアの取組みとか、VRがどうだとか。感度の高い人たちだけでやっていてもレバレッジが利かないので、みんなでやってもらって、本当にコアなところだけ担当者にやってもらうようにしないと。

―――データ分析時代にどんな人が欲しいですか?

 広告のことを理解し、データも分析でき、デジタルマーケティングも理解できているデータアナリストです!でも、そんな人はなかなかいませんよね・・。お客様の企業でもデータアナリストを中途採用しようとしていますし、人材が不足している印象です。

 

リード獲得に傾きがちなBtoBマーケティング

―――BtoBのクライアントさんはデータ活用に何を求めてきていますか? 

 最近はリードの獲得が一番のテーマです。少し前までは広告が営業につながる、商談につながるという発想がなく、広告会社はブランディング、社名を知ってもらうという認知獲得のお手伝いが中心でした。今は一気通貫できるレベルになってきていて、お客様のマーケティング部署が獲得したリードを営業に渡して、マーケティング予算がどうレバレッジしていくかというところを見ていく体制になってきています。

 でも、精度が上がるのはいいけど、リマーケティングをやりすぎて母数が減るのも問題です。BtoBは商談につながるまでのスパンが長いので、何年後かの成約を獲得するために今の潜在顧客を育てるという発想も大事です。現在だけでなく未来の売り上げのことも考えていかないといけません。お客様にそのことを伝えながら、目標としているリードをいかに獲得するか・・そのバランスに注意するようにしています。


―――お客様は木村さんと同じ認識でいるのでしょうか。

 基本的には同じ認識であると思います。ある程度規模の大きいお客様になりますと、定期的に認知やサービスへの理解の調査もしていて、そのスコアも大事にしていますし、大きいトピックスがあるときは新聞や雑誌広告も動きます。しかし、今後は売り上げへの貢献が証明できない取り組みは予算を縮小していくという流れにはなるかもしれません。

 BtoBはリードが取れたとしても、すぐ導入に結び付くケースは少ないですし、長いスパンでターゲットとコミュニケーションしていかないといけません。目前のリード獲得を重視しすぎて、認知や理解にお金をかける意識が薄くなってしまうのは得策ではないと感じています。

 
後編 >> 読売広告社木村朋子氏に聞く(後編)「メディアと一緒に模索するデータ活用」

 

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